トレイルランニング中の補給で迷いやすいのが、「ジェルだけで走り続けられるのか」「固形食はいつ食べればいいのか」という判断です。ロードマラソンとは違い、トレランは標高差・気温変化・行動時間のばらつきが大きく、一つの答えが通用しません。
ジェルと固形食はそれぞれ得意な場面が異なります。どちらが優れているかではなく、「どの場面でどちらを使うか」を決めておくことが、後半の失速や胃のトラブルを防ぐ鍵になります。この記事では、エネルギー補給の基本的な考え方から始め、ジェルと固形食の特性の違い、組み合わせ方の判断基準、失敗しやすいパターンまでを順に整理します。
なぜ補給のタイミングと種類が重要なのか
トレランで消費するエネルギーの主な燃料は、筋肉と肝臓に蓄えられたグリコーゲン(糖質)です。体内に蓄えられる量には上限があり、強度の高い運動では数時間で底をつく可能性があります。この状態を「ハンガーノック」と呼び、急激な脱力感や判断力の低下を引き起こします。山の中でハンガーノックに陥ると、下山や自力行動に支障が出るため、エネルギーが切れる前に継続的に補給することが基本です。
補給のもう一つの難しさは、運動強度が上がると消化機能が低下することです。走っているときに胃腸に向かう血流が減るため、消化に時間のかかる食べ物は吐き気や腹痛の原因になります。ジェルが短時間で吸収されやすいのも、固形食が山頂や休憩地点向きなのも、この生理的な理由があります。
ジェルの特性と使いどころ
ジェルは主に糖質(マルトデキストリンやフルクトースなど)を半液体状にしたエネルギー食品です。噛む必要がなく、走りながらでも摂取できます。吸収が速いため、エネルギーが急速に落ちている場面や、急登・急下降の直前に補給しやすいのが特徴です。
ジェルを使う場面の目安
- 行動開始から30〜45分後の最初の補給(体内グリコーゲンの消耗が始まる前)
- 急登や技術的なセクションの直前(立ち止まらずに補給したいとき)
- 後半に疲れが出て食欲が落ちたとき(固形食が喉を通らない段階)
- 気温が低く、固形食が凍ったり硬くなったりするとき
ジェルの注意点は、水分と一緒に摂ることです。水なしで飲み込むと胃腸への負担が増えます。また、甘さへの飽きが早く、長時間レースでは後半に受け付けなくなることがあります。同じメーカー・フレーバーだけで揃えるよりも、数種類を組み合わせておくと対処しやすくなります。
カフェイン入りのジェルは、眠気対策や集中力の維持に効果があるとされていますが、使い慣れていない状態で長時間の山行に持ち込むと、胃の不調や心拍数の変化に戸惑うことがあります。事前に短い練習で反応を確かめておくことをおすすめします。
固形食の特性と使いどころ
固形食とは、おにぎり・パン・エナジーバー・ナッツ・ドライフルーツ・和菓子(羊羹・あんこ餅など)などを指します。咀嚼が必要なぶん吸収は緩やかですが、満腹感・口の中の変化・塩分・脂質も一緒に摂れるという利点があります。長時間の山行では、心理的な「食事の満足感」がモチベーションの維持に関わることもあります。
固形食が適している場面
- エイドステーション・山頂・展望台など、立ち止まれる場所での休憩補給
- 行動強度が低い緩やかな区間(歩いて登る登山道など)
- ジェルへの飽きが出始めたとき
- 塩分や脂質も一緒に補いたいとき(特に長時間・多汗の場面)
固形食を選ぶ際のポイントは、パッケージを片手で開けられるか、寒さで硬くなりすぎないか、の二点です。秋冬のトレランや高標高では、チョコレートコーティングされたバーが凍り、固形食として機能しなくなることがあります。羊羹や求肥入りの和菓子は比較的低温でも柔らかさを保ちやすく、日本の山域向きといえます。
ジェルと固形食を組み合わせる判断基準
「ジェルだけ」「固形食だけ」ではなく、行動時間・強度・気温に応じて使い分けるのが現実的な戦略です。以下の考え方を基本の枠組みにしてください。
行動時間による大まかな目安
- 〜2時間程度、補給の重心:ジェル中心。固形食は不要な場合も多い
- 2〜4時間、補給の重心:ジェルを基軸に、中間点で固形食を1〜2回
- 4時間以上、補給の重心:ジェルと固形食を交互に。後半は固形食の割合を上げる
4時間を超える山行では、同じ補給パターンを繰り返すと飽きや胃の疲れが出やすくなります。前半はジェル主体で強度の高い区間を乗り切り、中間以降は固形食で胃に変化を与えるという流れが一般的に合理的です。
強度と気温による補正
急登や岩場など強度が上がる区間は、直前に少量のジェルを入れておくと力を出しやすくなります。一方、稜線歩きや下山の緩い区間では固形食に切り替えて消化の時間を作ります。気温が低い場面では、固形食の凍結に注意しながらジェルの割合を高める方向で調整してください。
補給の頻度
「腹が減ってから食べる」ではなく、「30〜45分に一度、少量ずつ入れ続ける」が基本です。空腹を感じた時点ではエネルギーがすでに不足し始めています。タイマーやGPSウォッチのアラートを使って定期補給の習慣をつけると、ハンガーノックの予防につながります。
よくある失敗と対処
ジェルを飲み込んでから気持ち悪くなる:水分不足か、摂取ペースが速すぎる可能性があります。一度に1本を一気に飲まず、半分ずつ2〜3分かけて摂ることで胃への刺激を減らせます。
固形食を持っていったが食べられなかった:高強度の後半に固形食を残してしまう失敗です。固形食は前半の強度が落ち着いている区間で積極的に消化しておく意識が必要です。
補給食を忘れた、または足りなくなった:計画した行動時間の1.3〜1.5倍のカロリーを携行する習慣をつけると、天候や体調による遅延に対応できます。山岳地帯では行動予定より長くなることが多いです。
甘いものしか持たず、後半に食欲がなくなった:塩気のある食品(塩飴・スポーツフード・クラッカーなど)を1〜2種類混ぜておくと、甘さへの飽きに対応できます。
次の行動
まず手持ちの補給食を見直し、ジェルと固形食が両方含まれているかを確認してください。次に出かける山行で、30〜45分ごとに少量ずつ補給するパターンを意識して試してみてください。補給のタイミングや組み合わせに迷いがある場合は、YAMATOMOの認定ガイドに相談するか、コミュニティで経験者の知恵を聞いてみるのも一つの方法です。
参考資料
- スポーツ栄養学の基礎(日本スポーツ栄養学会)
- 登山届・山岳遭難統計(警察庁)
- 山岳気象・天候の確認(気象庁)