著者 YAMATOMO 編集部 公開日 更新日 約8分で読めます

トレイルランニングの始め方——登山からの移行

トレイルランニングの始め方——登山からの移行(イメージ)

縦走や雪山を重ねてきた登山者が、トレイルランニング(以下トレラン)に興味を持つのは自然な流れです。「足を速めれば日帰りの行動範囲が広がる」「稜線を軽快に走りたい」という動機は、装備の軽量化や計画の自由度への欲求と地続きになっています。

一方で「登山の経験があればすぐ走れる」と思って始めると、思わぬ場所でつまずきます。登山者がトレランに移行するとき、体力ではなく動作パターンと装備の考え方を切り替えるところに最初の壁があります。この記事では、登山経験者がトレランに移行するための判断基準と手順を、混乱しやすい点を中心に整理します。

登山経験者がつまずく三つのポイント

登山で培った体力と地図読みの技術はトレランでも確実に生きます。ただし、次の三点は登山の習慣と逆方向の調整が必要です。

下りの衝撃への適応 登山では下りをゆっくり慎重に歩くのが基本です。トレランの下りは重心を前に乗せ、素早く足を置き換えながら地面との接触時間を短くします。この動作は登山靴でゆっくり歩いてきた筋肉・腱(とくに大腿四頭筋と膝周りの腱)とは異なる負荷をかけます。移行初期に膝やふくらはぎに痛みが出やすいのはここが原因です。

ペースの組み立て方 縦走では「一定の歩幅・一定のペース」が鉄則ですが、トレランでは急登を歩き、平坦を走り、下りを飛ばすという変速が常態です。心拍数の急上昇と回復を繰り返す運動形態に体が慣れていないと、序盤の登りで心拍が上がりすぎて後半に走れなくなります。

水・食料の摂取タイミング 登山では休憩のたびにまとめて補給できますが、トレランは動きながら少量ずつ補給するのが基本です。立ち止まらずに飲食するためのソフトフラスクやベスト型のパック(トレランベスト)の使い方に慣れておく必要があります。

装備の切り替え方——何を残し、何を変えるか

登山装備をそのままトレランに転用しようとすると、重さと動きにくさの両方で限界が来ます。ただし、すべてを一度に買い替える必要はありません。

優先して変えるもの

シューズはトレランへの移行で最も重要な投資です。登山靴はソールが硬く重心が高い設計ですが、トレランシューズは軽量で地面の感触を拾いやすく、走行時の足首の動きに追随します。ソールのラグ(突起)の深さはコースの泥・岩・根の状況で選びますが、入門段階では中程度のラグで舗装路も林道も走れる汎用モデルが扱いやすいです。

ザックは容量よりも固定性を優先します。走ると揺れが疲労に直結するため、胸と腰でしっかり固定できるトレランベスト型がおすすめです。日帰り5〜10時間程度なら5〜10リットル前後の容量が目安になりますが、水・食料・雨具・エマージェンシーキットを入れて余裕がある容量を選んでください。

登山装備から流用できるもの

レインウェアはトレラン用の薄手軽量タイプへの移行が望ましいですが、すでに持っている軽量のものは最初はそのまま使えます。ファーストエイドキット、ヘッドライト、エマージェンシービバークシートは登山用のものをそのまま携行します。トレランだからといって安全装備を省いてはいけません。

最初の三ヶ月の進め方

移行初期は「走れる距離」より「走れる体を作ること」を優先します。

1〜4週目:歩走混合で動作を覚える

慣れた低山コースを選び、平坦で走りやすい区間だけをジョギングペースで走ります。登りはこれまで通り歩いて構いません。この段階での目標は「シューズの感触に慣れること」と「下りで大腿四頭筋が翌日に筋肉痛になる感覚を経験すること」です。筋肉痛が出た場合は、ダメージが残らないうちに次の山行に行かないようにしてください。

5〜8週目:下りの動作を意識する

下りでの着地を意識的に練習します。かかとから着地すると膝への衝撃が大きくなります。つま先〜前足部で軽く着地し、すぐに次の足へ移る感覚を身につけます。急斜面の下りは無理に走らず、走れると判断できる斜度だけで練習します。

9〜12週目:補給と時間管理を組み込む

ソフトフラスクやトレランベストに慣れたうえで、行動中に30〜45分ごとに補給する習慣をつけます。登山の感覚では「お腹が空いてから食べる」が多いですが、トレランでは糖質の切れ目が急にパフォーマンスに現れます(いわゆる「ハンガーノック」)。少量を先取りして補給するリズムを体に覚えさせます。

安全管理——登山者として持ち込むべき習慣

トレランコミュニティには「軽量・高速」の文化がありますが、登山者として山の安全に慣れてきた習慣は手放さないでください。

エスケープルートの確認は必須です。走るペースが上がると行動範囲が広がる分、天候変化や体調悪化への対応に使える時間の余裕が薄くなります。コース上の途中下山ポイントを事前に地形図で確認しておきます。

装備の省略は段階的に。入門期は「走れるから要らない」と判断する前に、「この装備なしで何が起きうるか」を一つずつ検討します。レインウェアとエマージェンシービバークシートは天候が読める日帰り低山でも携行を続けることを推奨します。

単独走行の届け出。登山届と同じく、どのコースをいつ走るか、下山予定時刻を誰かに伝えておきます。万が一の際の初動対応が大きく変わります。登山届のポータル(登山届受理窓口)はトレランにも活用できます。

気象の確認先は登山と変わらず、気象庁の山岳気象予報や各地域の天気予報を前日夜と当日朝に確認します。稜線に出るコースは特に風速の変化に注意してください。

登山とトレランの判断を分ける基準

移行期に迷いやすいのが「今日はどちらのスタイルで行くか」という判断です。以下を目安にしてください。

どちらのスタイルでも、山中での判断基準は同じです。引き返す勇気と安全装備を忘れないでください。

次の行動

まずはすでに歩き慣れた低山コースを選び、平坦な区間だけを走ってみることから始めてください。トレランシューズを購入する際は、登山ショップのスタッフに足型と予定コースの傾向を伝えて試し履きをしてから選ぶのが確実です。コースや仲間を探したい場合は、YAMATOMOの「ベースキャンプ」でトレランに関心のある近場の登山者とつながることもできます。

参考資料

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