トレイルランニングで最も多く起きるケガの部位は、足首と膝です。不整地の下りで足首を捻る、膝の外側や前面に繰り返しの痛みが出る——この二つのパターンは、経験年数に関係なく起きます。「軽い痛みだから走り続けた」「テーピングで誤魔化したら悪化した」という話は珍しくありません。
この記事では、足首捻挫と膝の代表的な痛みについて、なぜ起きるか・どう判断するか・いつ走るのをやめるかを整理します。治療の判断は医師に委ねるべきですが、山の中でとっさに状況を判断するための基準は、あらかじめ知っておく価値があります。
足首捻挫——なぜトレイルで起きやすいか
ロードと違い、トレイルは踏面が一定しません。石・木の根・濡れた土・急な傾斜の切り替わり。足が着地する瞬間、地面の角度が予測と少しずれるだけで、足首は内側へ強くひねられます。これが外側靭帯(主に前距腓靭帯)の捻挫です。
捻挫の重さはおおまかに三段階に分かれます。靭帯が伸びた状態(Ⅰ度)、部分断裂(Ⅱ度)、完全断裂(Ⅲ度)です。山の中でMRIは撮れませんが、次の二点でⅡ〜Ⅲ度を疑う目安になります。
- 体重をかけると激しく痛む、または立てない:靭帯や骨への負荷が大きい状態です。歩行を続けることで悪化するリスクがあります。
- くるぶしの周囲に急速に腫れが広がる:内出血が進行しています。Ⅰ度でも腫れは出ますが、広がり方と速さが判断の手がかりになります。
どちらかに当てはまる場合、「なんとか歩ける」と判断して進行するのは危険です。単独行であれば同行者や登山届の緊急連絡先へ状況を伝え、自治体の登山相談窓口や山岳救助の連絡先を確認しておくことが先決です。
Ⅰ度と判断できる場合(腫れが軽い・体重をかけて歩ける・痛みが動作とともに和らぐ)でも、下山後は速やかに整形外科を受診してください。靭帯の損傷程度は触診・画像診断なしでは正確に判断できません。「歩けたから大丈夫」で放置すると、慢性的な足首不安定性(習慣性捻挫)につながります。
膝の痛み——二つのパターンを区別する
トレランで膝に出る痛みには、大きく二つの場所があります。膝の外側と膝の前面(膝蓋骨まわり)です。原因と対応が異なるため、どちらかを見極めることが重要です。
腸脛靭帯炎(膝外側の痛み)
大腿骨の外側を走る腸脛靭帯が、膝の外側の骨の出っ張り(大腿骨外側顆)と繰り返し擦れることで炎症を起こします。下り坂での膝の曲げ伸ばしが多いほど症状が出やすく、「下り始めて30〜40分後に膝外側がじりじり痛くなる」という訴えが典型的です。
止まって休むと痛みが引き、また走り出すと再発する——このサイクルが続くようなら、その日の走行を打ち切ることを検討してください。走り続けると炎症が強まり、回復に要する期間が大幅に延びます。
原因としてよく挙げられるのは、急激な走行距離の増加、下りのフォームの崩れ、臀部・股関節まわりの筋力不足です。縦走や泊まりの計画を立てている場合、腸脛靭帯炎を抱えたまま長距離の下りに入るのは大きなリスクです。
膝蓋大腿関節症候群(膝前面の痛み)
膝蓋骨(膝のお皿)の裏側と大腿骨の間の軟骨面に負荷がかかり続けることで起きます。階段の下りや長時間の下りで鈍痛や違和感が出るのが特徴です。「ランナー膝」と呼ばれることもありますが、腸脛靭帯炎と混同されやすいため、痛みの場所(外側か前面か)を意識して確認してください。
どちらのパターンも、痛みが出ている状態での無理な継続は症状を慢性化させます。山行中に痛みが出た場合は下りのペースを落とし、ストック(トレッキングポール)があれば膝への衝撃分散に使います。下山後は整形外科またはスポーツ整形外科に相談してください。
山の中での応急判断——「続けるか、やめるか」
ケガが起きたとき、山の中での判断は「治療する」ではなく「安全に下山できるか」に絞ります。次の問いに順番に答えてください。
- 体重をかけて歩けるか——足首・膝ともに、自分の体重を支えて歩行できない場合は自力下山を優先せず、救助要請を含めた選択肢を検討します。
- 痛みが動くたびに増しているか——安静にすれば引くが動くと増す、という状態が続く場合、運動を続けることで損傷が拡大するリスクがあります。
- 残り行程と下山ルートの難易度はどうか——痛みが軽度であっても、残り行程が長く・技術的に難しい下りが続く場合は引き返す判断が合理的です。
「もう少し行けば稜線だから」という動機で判断を先延ばしにしやすい局面ですが、ケガの状態は気温・疲労・荷物の重さによってさらに悪化します。判断は早いほどリスクが小さくなります。
再発を防ぐための準備——走る前にできること
一度足首や膝を痛めると、同じ場所を再び痛めやすくなります。再発防止の観点から、走行前にできることを整理します。
足首:捻挫の既往がある場合、医師や理学療法士の指導のもとでバランストレーニング(片脚立ちなど)を継続することが、靭帯周囲の筋力と固有感覚(位置覚)の回復に寄与します。テーピングやサポーターは補助として有効ですが、それだけで再発リスクがなくなるわけではありません。
膝(腸脛靭帯):臀部・股関節外転筋群(中殿筋など)の筋力が不足すると、着地のたびに膝が内側に入り腸脛靭帯への負荷が増します。スクワットやヒップアブダクションなど、臀部を強化する種目を走行トレーニングと並行して取り入れることが一般的に有効とされています。
シューズの選択:トレイル用シューズはアウトソールのグリップと足首まわりのサポートがロードシューズと異なります。自分の足型に合わないシューズは足首・膝双方への悪影響になりえます。購入前に専門店でフィッティングを受けることを検討してください。
いずれも個人の身体の状態によって適切なアプローチが異なります。既往がある方は、トレーニング内容を医師や理学療法士に相談したうえで進めてください。
次の行動
足首か膝に違和感がある状態で次の山行計画を立てている場合は、まず整形外科またはスポーツ整形外科を受診し、現在の状態を確認してください。縦走や泊まりの計画は、ケガが完治してから組むほうが結果として近道です。YAMATOMOの認定ガイド機能では、自分の体力・経験に合ったルート選びを相談できる場合があります。詳細は公式サイトでご確認ください。
参考資料
- 日本整形外科学会「運動器の10年」関連資料
- 日本スポーツ整形外科学会 患者向け情報
- 警察庁「山岳遭難の概況」(各年版)