登山道を歩いていると、同じ傾斜でも「この山はグリップが効く」「こっちは滑りやすい」と感じることがあります。その違いの多くは、足の下にある岩の種類によって生まれています。岩質は地形の形状や崩れやすさ、濡れたときの摩擦、浮き石の出やすさに直結するため、山を選ぶ前・ルートを読む前に知っておくと判断の精度が上がります。
この記事では、日本の山に多い代表的な岩種を取り上げ、それぞれが登山者の足元にどう影響するかを整理します。地質学の専門知識は必要ありません。「この山は花崗岩が多い」という情報を読んだときに、足元の状況をある程度イメージできるようになることを目標にしています。
岩の種類が足元に影響する三つの理由
岩質が歩きやすさに関わる理由は、大きく三つに整理できます。
表面の粗さとグリップ:岩を構成する鉱物の粒の大きさや硬さによって、岩肌の粗さが変わります。粗い岩はソールが引っかかりやすく、細かく滑らかな岩は乾いていても摩擦が小さくなります。
水を含んだときの変化:岩の種類によって、濡れたときの摩擦低下の程度が大きく異なります。乾燥時と雨天時で別の岩と思うほど性質が変わるものもあります。
崩れやすさと浮き石:火山性の破砕岩や風化した堆積岩は、一見安定して見えても体重をかけると崩れたり動いたりします。浮き石(踏んだ瞬間に動く石)の多さは岩種と風化の程度に強く左右されます。
花崗岩——乾燥時は頼りになるが濡れると別物
花崗岩(かこうがん)はマグマがゆっくり冷えて固まった深成岩で、石英・長石・雲母などの粒が粗く結晶しています。北アルプスや奥秩父など、日本の主要な山域に広く分布しています。
乾いた花崗岩の岩肌は粒が大きく粗いため、ラバーソールのフリクションが非常によく効きます。岩場での手がかり・足がかりが取りやすく、クライマーに好まれる岩質のひとつです。
問題は濡れたときです。花崗岩の表面が水を含むと、粗さを生かせずにソールがすべりやすくなります。特に苔が生えた花崗岩は、雨の日や朝露の残る時間帯に極端に滑ります。「晴れの日に歩いた記憶」と「雨の日の現実」がかけ離れる代表的なケースです。花崗岩の多い山では、降雨後・早朝の岩場通過に十分な余裕を持って計画する必要があります。
また、花崗岩は風化すると「ザレ場」や「ガレ場」になります。砂状に崩れた花崗岩(真砂土)の斜面は踏み込むたびに足が沈み、登りは体力を消耗し、下りは足元が安定しません。
安山岩・玄武岩——火山の山に多い、状態の読みにくい岩
安山岩(あんざんがん)と玄武岩(げんぶがん)は、マグマが地表や地表付近で急速に冷えた火山岩です。富士山・浅間山・八ヶ岳・伊豆・東北の火山群など、活火山や休火山の多い山域に広く見られます。
花崗岩と比べると粒が細かく、岩肌は比較的滑らかです。溶岩が固まった新しい表面はざらつきがありますが、風化が進むと表面が磨耗して摩擦が落ちます。
火山岩の足元でとくに注意が必要なのが「スコリア」や「火山礫(かざんれき)」と呼ばれる多孔質の軽石状の岩です。富士山の下山道で足が沈む感覚がその典型で、一歩ごとに崩れるため登りに使うと疲労が大きく、転倒時の滑落距離も長くなりやすいです。登山道の整備状況や推奨ルートは山ごとに異なるため、各山の管理者や登山口の案内板で確認することが重要です。
玄武岩の溶岩流が固まった場所では、表面が波打ったり鋭く割れたりしていることがあります。靴底だけでなく、転んだときに手や膝を傷めやすい地形です。
石灰岩・チャート——独特の地形と滑りやすさ
石灰岩(せっかいがん)は海底の生物の殻などが堆積した岩で、秋吉台(山口県)のような台地だけでなく、赤石山脈の一部や四国の山域にも見られます。チャートは放散虫(ほうさんちゅう)などの微生物が堆積した硬い岩で、西日本の山に分布が多いです。
石灰岩は酸性の水に溶けるため、表面に細かな溝や穴が生じます。この凹凸は乾燥時にはグリップを助けますが、水が溜まると非常に滑りやすくなります。とくに雨後の石灰岩のカレンフェルト(石灰岩が溶食されてできた凹凸地形)は、隙間に足を取られるリスクもあります。
チャートは非常に硬く、刃物状に割れることがあります。落石や崩落時に鋭利な破片が出やすく、稜線上の岩壁付近では頭上への注意も必要です。
変成岩・堆積岩——地域によって差が大きい
片麻岩(へんまがん)や結晶片岩(けっしょうへんがん)などの変成岩は、高圧・高温で変質した岩で、日本各地の古い山塊に見られます。層状に剥がれやすいものがあり、踏んだ岩が薄く剥離して動く「板状浮き石」が出やすい場合があります。
砂岩・泥岩などの堆積岩は、地域と風化の程度によって特性が大きく異なります。固く締まった砂岩は安定していますが、柔らかい泥岩や頁岩(けつがん)は雨を吸って泥化しやすく、登山道がぬかるみやすい地形を作ります。
いずれも「この岩質だから安全」「この岩質だから危険」と一概には言えず、風化の程度・乾湿・傾斜・苔の有無が重なって実際の難しさが決まります。
歩く前に岩質を調べる方法と現場での判断
事前に山の岩質を調べるには、地質図(国土地理院や産業技術総合研究所の地質調査総合センターが公開)が有効です。地図上で対象の山域の岩種を大まかに確認できます。登山ガイドブックや山岳団体のウェブサイトでも「花崗岩の岩稜」「溶岩帯」などの記述を参照できます。
現場での判断は次の点を意識すると精度が上がります。
- 色と粒を見る:白っぽく粒が粗ければ花崗岩系、暗灰色〜黒で粒が細かければ火山岩系の可能性が高いです。
- 濡れ具合を確認する:岩の表面が濡れているか、苔が乗っているかを踏む前に目で確認します。
- 軽く押してみる:手や杖で岩を軽く押し、動くかどうかを確かめてから体重をかけます。
- 浮き石の多いエリアでは分散して通過しない:グループで固まって歩くと落石リスクが増します。
岩質の判断は慣れが必要で、同じ山でも場所によって混在することがあります。「滑りそう」と感じたら引き返す判断を優先してください。
次の行動
歩く予定の山の地質を、国土地理院または産業技術総合研究所の地質図ナビで事前に確認してみてください。岩種がわかったら、その山の登山情報と照らし合わせることで、足元のリスクをより具体的にイメージできます。山仲間と岩質の読み方を共有したい場合は、YAMATOMOのコミュニティ機能を活用してみてください。
参考資料
- 国土地理院「地質図」
- 産業技術総合研究所 地質調査総合センター「地質図Navi」
- 日本地質学会編『日本地方地質誌』各巻