著者 YAMATOMO 編集部 公開日 約8分で読めます

登山の足がつる——予防と対処

登山の足がつる——予防と対処(イメージ)

下山中に突然ふくらはぎが硬直し、一歩も動けなくなった経験を持つ登山者は少なくありません。「足がつる」とは、筋肉が意思とは無関係に強く収縮し、激しい痛みとともに動かせなくなる状態です。医学的には「筋痙攣(きんけいれん)」と呼ばれます。

登山でこれが起きやすい理由は、長時間の筋肉疲労・発汗による電解質の損失・脱水・寒冷・血流低下が重なるからです。どれか一つを対策しても完全には防げないため、「つらないためにどう準備するか」と「つったときにどう対処するか」の両方を理解しておく必要があります。

この記事では、登山中の筋痙攣に絞り、なぜ起きるかの仕組みを簡単に整理したうえで、出発前・行動中・その場での対処を具体的に示します。持病のある方や繰り返しつる場合は、医師に相談することをお勧めします。

なぜ登山中につりやすいのか

筋痙攣の原因はまだ完全には解明されていませんが、登山という運動に特有の要因がいくつか重なることが知られています。

疲労による神経制御の乱れが代表的な要因の一つです。筋肉が長時間疲弊すると、筋肉の伸びを感知するセンサー(筋紡錘)と縮みを感知するセンサー(腱紡錘)のバランスが崩れ、脳からの「緩めろ」という信号が届きにくくなるとされています。下山時に筋痙攣が多い理由はここにあります。下りは登りよりも脚の筋肉が疲労しやすく、特に大腿四頭筋(太もも前面)とふくらはぎへの負担が集中します。

電解質の不足も関係します。汗にはナトリウム・カリウム・マグネシウムなどが含まれており、水だけを補給し続けると血中のイオン濃度が下がります。筋肉の収縮と弛緩はイオンのやり取りで制御されているため、このバランスが崩れると痙攣が起きやすくなります。

低体温と血流低下も見落とされがちです。稜線での急激な冷えや、行動停止後の体温低下でふくらはぎや足の裏がつることがあります。特に秋〜冬の山でテント泊中や休憩中につるケースはこの要因が大きいことが多いです。

出発前にできる予防

前日・当日の水分と食事

電解質を含む食事を意識することが基本です。白米・バナナ・味噌汁・梅干しなどに含まれるナトリウム・カリウムは、前日夕食と当日の朝食で摂れます。極端な炭水化物制限や、利尿作用の強いアルコールを前夜に多量に摂ることは避けるのが賢明です。

ウォームアップとストレッチ

登山口で5〜10分かけて歩き始める前に、ふくらはぎ・大腿四頭筋・ハムストリングス(太もも裏)を動的にほぐしておきます。バリスティックストレッチ(弾みをつける動き)よりも、関節をゆっくり回す・膝を曲げ伸ばしする・かかとを上げ下げするといった動的ストレッチが行動前には適しています。

補給食の選択

行動食にスポーツようかん・塩味のナッツ・電解質タブレットなどを加えておくと、電解質の継続補給ができます。水だけを大量に飲む補給は、低ナトリウム状態を招くリスクがあります。

行動中の予防

こまめな水分補給は「喉が渇く前に少量ずつ」が基本です。一度に大量に飲むよりも、30分おきに100〜200ml程度を補給し続けるほうが体液バランスを保ちやすいとされています。

ペースの管理も重要です。急登や急下降が続くセクションで無理に飛ばすと、局所的な筋疲労が急速に蓄積します。特に下りで「もう少しで登山口」という場面でペースを上げると、疲弊した脚がつりやすくなります。下山の後半ほどペースを落とす意識を持つことで、筋痙攣のリスクを下げられます。

休憩中の保温も大切です。稜線や山頂で休むときは、行動を止める前にウィンドシェルやフリースを羽織り、ふくらはぎが急冷されないようにします。秋・冬の山では薄手のタイツやゲイターが保温と血流維持に役立ちます。

ストックの活用は、脚への負荷分散に直接効きます。下りでストックを使うと、衝撃の一部が腕と体幹に分散されるため、ふくらはぎへの集中負荷が減ります。登山初心者や体力に不安がある場合は、下りからストックを積極的に使うことをお勧めします。

つったときの対処手順

1. 安全な場所に止まる

斜面や岩場の上で無理に歩き続けると転落のリスクがあります。まず平らで安定した場所に移動し、座るか立ったまま壁・岩に体を預けます。

2. 筋肉をゆっくり伸ばす

ふくらはぎがつった場合は、かかとを地面につけたままつま先を手前に引き寄せ、アキレス腱とふくらはぎをゆっくり伸ばします。勢いよく引っ張ると筋肉を傷める可能性があるため、痛みが和らぐ手前の角度で止め、20〜30秒かけてゆっくり伸ばします。太もも前面(大腿四頭筋)がつった場合は、立ったまま片足のかかとをお尻に引き寄せます。

3. 筋肉を温める・軽くほぐす

痙攣が緩和したら、手のひらで患部を軽くさするように温めます。強くもむと筋線維を傷める場合があるため、最初は圧をかけずに血流を促す程度にとどめます。

4. 電解質を補給する

水と同時に塩分タブレット・ジェル・梅干しなど電解質を含むものを摂ります。水だけを多量に飲むのは避けます。

5. 行動を再開する前に確認する

痛みが完全に引かないまま歩くと、かばい歩きで別の部位に負担がかかります。5〜10分休み、正常に体重をかけられることを確認してから歩き始めます。頻繁につる・痛みが引かない・片足だけ著しく腫れるなどの症状がある場合は、無理に下山せず、同行者や山小屋に助けを求めてください。

繰り返しつる場合の考え方

同じ山で毎回つる、睡眠中もつる、特定の筋肉だけに集中して起きるといった場合は、脱水・電解質不足以外の原因(血行障害・神経の問題・薬の副作用など)が関わっている可能性があります。登山のトレーニングを見直すだけで解決しないこともあるため、かかりつけの医師に相談することをお勧めします。

また、普段の平地でのトレーニング不足が根本原因になっているケースも多いです。ふくらはぎのカーフレイズ(かかとの上げ下げ)・大腿四頭筋を鍛えるスクワット・体幹トレーニングを週2〜3回継続することで、筋肉の疲労耐性を上げ、つりにくい体に近づけます。一朝一夕には変わりませんが、次のシーズンに向けた着実な準備になります。

次の行動

次の登山前に、行動食の中に電解質タブレットまたは塩分補給用のアイテムが入っているかを確認してください。下山後に脚がつった経験があるなら、ストックを下りから使う運用に切り替えることも検討してみてください。持病や繰り返しつる症状が気になる場合は、山に行く前に医師に相談することをお勧めします。YAMATOMOの認定ガイドへの依頼機能を使うと、体力レベルに合ったペース配分を相談しながら山に入ることもできます。

参考資料

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