2026年9月10日で富士山の開山期間は終了しましたが、五合目周辺の道路や施設が一斉に閉じたわけではありません。山頂への登山道は通行止めとなり、救護所や山小屋の営業も施設ごとに終了しています。一方で富士宮の五〜六合目など、秋も供用される区間があります。宝永山方面や御中道を計画する際も、開放範囲と現地の状況を出発前に確認します。
9月11日に引かれたのは、法律の線です
2026年の開山期間は、吉田・須走ルートが7月1日から、御殿場・富士宮ルートが7月10日から、いずれも9月10日まででした。静岡県側3ルートの登山道は9月10日午後5時に冬期閉鎖となり、吉田・須走・御殿場は五合目から、富士宮ルートは六合目から山頂までが通行禁止になりました。
この閉鎖は登山者への「お願い」ではありません。富士登山オフィシャルサイトは、冬期閉鎖中の登山道が道路法第46条により通行禁止であり、違反した場合は6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が科される可能性があると明記しています。規制対象の区間へ立ち入ることは、マナーの問題ではなく法令違反にあたります。
なぜ山道に道路法なのか、と思われるかもしれません。静岡県はこの登山道の通行状況を、富士山スカイラインなどの車道と同じ「道路情報」のページで案内しています。五合目から上の登山道は、法律上は道路管理者のいる道路であり、その管理者が通行を禁じている——というのがこの線の正体です。山小屋・救護所・トイレも、施設ごとの日程で営業を終了します。山梨県警察は、携帯電話も通じにくい状態になると注意を呼びかけています。閉山の日に山で何が外れるのかは別稿で扱いました。本稿が追うのは、その線の下に何が残るのかです。
富士宮口に残るのは、線の下の2,400mです
4ルートのうち、富士宮ルートだけは扱いが違います。冬期閉鎖の起点は六合目で、五合目から六合目の区間は例年11月上旬まで開通しています。静岡県が9月10日に更新した道路情報でも、富士宮ルートだけは「五合目〜六合目」通行可能、「六合目〜山頂」通行止めと分けて書かれています。
富士宮口五合目は標高2,400mで、富士山の五合目のなかで最も高い位置にあります。駐車場は約350台。夏のマイカー規制は開山期間に合わせて行われ、2026年は7月10日から9月10日までの63日間。閉山後の秋は、五合目まで自家用車で直接上がれます。アクセス道の富士山スカイライン登山区間(富士宮口二合目〜五合目)が冬期閉鎖に入るのも例年11月上旬で、歩ける期間と車で上がれる期間はほぼ重なります。
ただし日付は予定どおりには来ません。2025年の閉鎖は11月10日午後2時の予定でしたが、積雪で前倒しになり、11月9日午前11時に全面通行止めとなりました。なお御殿場口の県道富士公園太郎坊線も須走口のふじあざみラインも、車道は通行可能で、閉じているのはその先の登山道のほうです。車道と登山道は別々に開け閉めされるため、出発前の確認は省けません。
宝永第一火口へ下って、登り返す
五合目から六合目(2,490m)までは約25分。六合目で宝永第一火口へ下り、火口底から登り返して宝永山の山頂(2,693m)までがさらに約1時間20分です。五合目からの標準コースタイムは、登り1時間45分、下り1時間ほどとされています。
宝永山は、1707年(宝永4年)の噴火でできた側火山です。富士山の頂を踏まずに、富士山の火口の底に立てる。この非対称さが、秋の富士宮口の面白さだと思います。火口の内側は火山礫のざれた斜面で、登り返しでは一歩ごとに砂に足を取られます。距離は短いのに疲れる山です。標高差の数字から想像するより手強い、と考えておくほうが安全です。
山梨県側に残るのは、雪が決める道です
山梨県側では、山頂へ向かう吉田ルートは閉じますが、山腹を水平に延びる御中道が残ります。山梨県の通行情報によると、歩けるのは富士スバルライン五合目のロータリーから四合目奥庭までで、御庭から大沢崩れ方面は通年で立入禁止です。環境省関東地方環境事務所によれば、五合目から一番奥のあずま屋まで片道約2.5km、ゆっくり歩いて1時間弱。そこから御庭へ下れば1時間半ほど、奥庭は20分ほどで周回できます。森林限界に近い高さを、ダケカンバの林と黄色く色づくカラマツ、コケモモの赤い実を見ながら歩く道です。
五合目までの足も、秋のほうが楽です。富士スバルラインは通年営業で、マイカー規制は2026年も7月3日から9月10日まで。秋は規制の外で、通行料は普通車が往復2,800円、軽自動車と125.1cc以上のバイクが2,300円です。ただし営業時間は季節で動き、1月・2月は9時から16時まで。冬に近づくほど、五合目に居られる時間が短くなります。
そしてこちらは、道路法による通行禁止ではなく積雪期の閉鎖です。環境省は11月頃から5月頃までを冬季閉鎖と案内していますが、富士山の初冠雪の平年日は10月2日。山頂に雪が来てから五合目周辺が冬に入るまでの時間は長くありません。秋の御中道は、告示上は11月頃まででも、9月中旬から10月いっぱいを実質的な最後の窓と見ておくほうが安全だと考えます。
秋の五合目で効くのは、夏とは別の物差しです
季節の物差しになるのが初冠雪です。長く甲府地方気象台が甲府からの目視で発表してきた指標で、平年日は10月2日。2025年は10月23日で平年より21日遅く、2024年は11月7日と、統計開始以来もっとも遅い記録でした。初冠雪が遅い年でも、五合目が暖かいわけではありません。2025年に初冠雪が発表された10月23日の朝、富士山頂の最低気温は-4.0℃でした。
なお気象庁は2026年秋、つまり今季から、この目視観測をやめます。レーダーやアメダスのデータから積雪を推定して発表する方式に切り替わります。山を見て季節を区切る営みが一つ減るのは寂しいものの、山頂が雲に隠れた日は発表できないという目視の弱点を思えば、妥当な変更ではないかと思います。
秋の五合目周辺でも防寒・防風装備が必要です。風の強い宝永火口では体が冷えやすく、天候が悪化してから装備を追加できるとは限りません。営業する施設や避難できる場所を事前に確認し、それらを当てにせず、悪化する前の引き返しや中止を計画に入れてください。
まとめ:二つの線を見分けられれば、秋の富士山は判断できます
山頂への登山道の通行止めと、五合目周辺の道路・歩道・施設の供用期間は別々に確認します。富士宮の五〜六合目や宝永山方面、山梨県側の御中道等を計画する場合も、自治体・道路管理者・環境省の最新案内と現地の規制に従ってください。法令による通行止めでも積雪による閉鎖でも、その先へ進まないことが必要です。
この二つは性質が違います。道路法の通行禁止がかかるのは、道路として管理されている登山道そのものです。富士山における適正利用推進協議会のガイドラインは、これとは別に、万全な準備をしない登山者の夏山期間以外の登山を禁じ、登山計画書の提出と携帯トイレの持参を求めています。装備と計画を整えれば登山道を歩いてよくなる、という関係ではありません。ガイドライン自身、登山計画書を出したからといって通行を許可したことにはならないと書いています。
出発前に確かめるべきは、天気や装備より先に、自分が向かう先がどちらの線の内側なのか、です。五合目まで行って宝永山で折り返す。秋の富士山では、それで十分に一日分の山行になります。
参考資料・出典
- 富士登山オフィシャルサイト「オフシーズン(閉山期間)の富士山」
- 静岡県「富士山登山道周辺の道路情報」
- 静岡県「静岡県富士山マイカー規制」
- 静岡県「静岡県各3登山口における登山規制の実施」
- 山梨県警察「富士登山情報」
- 富士宮市観光協会「富士山に登る 富士登山 富士宮口・富士宮ルート」
- 富士宮市観光協会「【重要】登山道全面冬期閉鎖・富士山スカイライン冬期閉鎖について」
- 登山口ナビ「富士山・宝永山(富士宮口) 登山口コースガイド」
- 山梨県「御中道(富士スバルライン五合目〜四合目奥庭)通行情報」
- 環境省 関東地方環境事務所「【富士山がある風景100選】御中道・御庭・奥庭を歩いてみませんか」
- 山梨県道路公社「富士スバルライン 営業案内」
- 世界遺産 富士山とことんガイド「番外編:夏山期間以外の3つのルール」
- 山と溪谷オンライン「【2026年 富士登山】今夏の規制・ルールが決定。全4ルートで入山料4000円、須走ルートは7月1日開山へ」
- ウェザーニュース「富士山の初冠雪 甲府地方気象台が発表 平年より21日遅い観測」
- ニッポン旅マガジン「気象庁(甲府地方気象台)が『富士山初冠雪』の目視観測を廃止」
- 富士登山オフィシャルサイト|2026年の各施設の供用期間
- 気象庁|初冠雪に関する情報提供の改善について(2026年7月31日)