登山地図を開くと、ルートの途中に「1:30」「0:45」といった数字が書かれています。これが「コースタイム」です。区間ごとに目安の所要時間を示したもので、登山計画を立てるときの基準として広く使われています。
ただし、コースタイムは「誰でもその時間で歩ける」という保証ではありません。何を基準に作られた数字なのかを理解しておかないと、計画が大幅にずれて下山が暗くなる、という事態につながります。初めて登山地図を使う方は、この数字の意味と扱い方を先に把握しておくことが重要です。
コースタイムはどうやって作られているのか
登山地図のコースタイムは、一般的に「登山者の平均的な歩行速度」をもとに算出されています。出版社や地図によって計算方法は異なりますが、多くの場合、休憩時間を含まない純粋な歩行時間として設定されています。
「平均的な登山者」の定義も地図によって微妙に異なります。ある地図では健脚な成人男性を基準にしている場合があり、別の地図では幅広い層を想定している場合もあります。同じルートでも地図によってコースタイムが数十分異なることがあるのは、この基準の違いによるものです。
大切なのは、コースタイムは「出発地点から山頂まで何時間」という一本の数字ではなく、区間ごとに分割されている点です。たとえば「登山口→第一休憩所:0:50 / 第一休憩所→山頂:1:20」のように刻まれています。区間ごとに見ることで、どこが急登でペースが落ちやすいか、逆にどこで時間を稼げるかが見えてきます。
自分のコースタイムを把握する方法
地図のコースタイムはあくまで基準であり、実際に自分がどれくらいの倍率で歩くかを知ることが計画精度を高めます。この倍率を「コースタイム比」や「個人倍率」と呼ぶことがあります。
初めて登山をする場合、まず歩いたことのある短めのルートで実測してみることが手がかりになります。手順は次のとおりです。
- 地図のコースタイムを区間ごとにメモしておく。
- 各区間の出発時刻と到着時刻を記録する(休憩に入った時刻と再出発の時刻も分けて記録する)。
- 歩行時間だけを合計し、地図のコースタイムと比べる。
たとえば地図のコースタイム合計が3時間00分で、自分の歩行時間が3時間45分だったとすると、倍率は約1.25倍です。次の山でも同じ倍率を当てはめると、計画の精度が上がります。
初心者の方は地図のコースタイムの1.2〜1.5倍を見込むのが一般的な考え方です。体力や荷物の重さ、道の状態によっても変わるため、最初の数回は余裕を大きめに取るほうが安全です。
コースタイムに含まれないもの
コースタイムは「歩行時間」の目安です。次のものは含まれていないことがほとんどです。
- 休憩時間:水分補給や食事、景色を眺めて立ち止まる時間。
- 写真撮影や地図確認:短時間でも積み重なると30分以上になることがあります。
- 渋滞や待ち時間:人気の山では鎖場や岩場に列ができることがあります。
- 悪天候や体調の変化:雨でぬかるんだ道や気温の変化は歩行速度に直接影響します。
日帰りの登山計画では、コースタイムの合計に休憩時間(区間数×10〜15分を目安に)を加え、さらに自分の倍率をかけた時間を「行動時間の目安」とします。そこから逆算して「何時に登山口を出発すれば日没前に下山できるか」を確認するのが基本の計画手順です。
下山のコースタイムを軽く見る初心者の方は多いですが、下りは膝への負担が増えて後半にペースが落ちやすく、疲労で足元のミスも増えます。上りと同じかそれ以上の余裕を持って計算してください。
地図ごとの違いと確認のポイント
日本の登山地図は複数の出版社から発行されており、代表的なものには昭文社の「山と高原地図」シリーズがあります。電子地図アプリにもコースタイムが表示されるものがあります。
同じルートを異なる地図で確認すると、コースタイムが異なる場合があります。どちらが正しいのではなく、「基準の違い」です。初心者の方は、数字の大きいほう(時間がかかるほう)を採用しておくと安全側に計画を倒せます。
また、同じ区間でも「上り」と「下り」で別々のコースタイムが記載されていることが多いです。地図の凡例や方向矢印を確認し、どちらの数字がどちらの方向に対応しているかを読み間違えないようにしてください。上り専用のコースタイムを往復に使ってしまうミスは初心者に多く見られます。
計画に組み込む際の判断基準
コースタイムを計画に落とし込むときの考え方を整理します。
- コースタイム合計が3時間以内のルートから始める:初心者が初めてコースタイムの感覚をつかむには、短いルートで実測するのが確実です。
- 「コースタイム×自分の倍率+休憩時間」を行動時間の目安にする:倍率がまだ不明な場合は1.3〜1.5倍を仮置きします。
- 日没時刻から逆算して「最終下山時刻」を決めておく:その時刻を過ぎそうになったら引き返す判断ができるよう、出発前にターンアラウンドポイント(引き返しの基準地点)を決めておきます。
- 山域・季節によってコースタイムの感覚が変わる:雪や凍結がある時期、泥道、草が道を覆う季節は歩行速度が落ちます。通常のコースタイムをそのまま当てはめず、条件を加味してください。
天候の急変や体調の変化は計画段階では読めません。余裕のある計画は「もったいない」ではなく、安全のための基本的な考え方です。
次の行動
手元の登山地図かアプリを開いて、行きたいルートのコースタイムを区間ごとに書き出してみてください。そのうえで「休憩なしの合計」と「休憩込みの想定」を計算し、日没時刻と照らし合わせて出発時刻を決める練習をすることが最初のステップです。実際に短いルートを歩いた後は、記録した歩行時間と地図の数字を比べて自分の倍率を確認してみてください。YAMATOMOの登山記録機能を使うと、区間ごとの時間を振り返りやすくなります。
参考資料
- 昭文社「山と高原地図」シリーズ(各巻の凡例・コースタイムの説明ページ)
- 国土地理院「登山に関する地図の利用」
- 警察庁・各都道府県警察「山岳遭難統計」