登山の途中で急に足が重くなり、一歩踏み出すたびにふらつく。頭がぼんやりして地図を読む気力もなくなる。そんな経験をしたことがある、あるいは同行者がそうなるのを見たことがある人は少なくないはずです。これが「シャリバテ」と呼ばれる状態です。
「シャリ」はご飯(炭水化物)、「バテ」は疲労困憊を指す登山用語で、要するにエネルギー切れによるパフォーマンスの急低下を意味します。医学的には低血糖に近い状態ですが、山では気温・標高・体力消耗が重なるため、平地よりも早く、より深刻な形で現れやすいという特徴があります。シャリバテは補給さえすれば回復しますが、放置すると判断力の低下につながり、道迷いや転倒のリスクが高まります。
初心者が陥りやすい理由は「お腹が空いてから食べる」という普段の習慣にあります。登山では消費が先行するため、空腹を感じた時点ではすでにエネルギー不足が始まっています。この記事では、シャリバテが起きる仕組みと、それを防ぐための補給のタイミング・判断基準を具体的に説明します。
なぜ山でエネルギーが切れやすいのか
登山では体が休みなくエネルギーを使います。急斜面の登りはもちろん、平坦な尾根歩きでも体幹と足を安定させるために筋肉が絶えず働いています。加えて、標高が上がると気圧が下がり、同じ動作でも体への負担が増す傾向があります。寒い時期は体温維持のためにもエネルギーが消費されます。
人間の体は糖質(グリコーゲン)をエネルギーとして優先的に使います。筋肉と肝臓に蓄えられているグリコーゲンの量には限りがあり、激しい運動が続くと数時間で底をつきます。そこへ補給が追いつかないと、血糖値が下がり始め、脳と筋肉の両方に影響が出ます。これがシャリバテの正体です。
脂質もエネルギーになりますが、脂質の代謝は糖質より時間がかかります。消化・吸収の速度という観点からも、行動中の素早いエネルギー補充には糖質が適しています。
シャリバテのサインを見逃さない
シャリバテは突然やってくるように感じますが、実は段階的に症状が進みます。次の変化に気づいたら補給のタイミングだと判断してください。
初期のサイン
- 足の動きが重くなり、ペースが落ちる
- 「少し休みたい」という気持ちが強くなる
- 集中力が散漫になり、景色や仲間の話が頭に入らない
中期のサイン
- 頭痛や軽いめまいを感じる
- 手足がだるく、力が入りにくい
- 気分が落ち込んだり、些細なことで苛立つ
深刻なサイン(要注意)
- 立ち止まると前後に揺れる
- 考えることが難しくなる
- 吐き気を伴う強い脱力感
深刻なサインが出た場合は登山を続けず、風を避けられる場所で座り、すぐに食事と水分を補給してください。改善しない、あるいは意識が遠のくような感覚があるときは、高山病や熱中症・低体温症など別の要因も考えられます。自己判断だけで行動を再開せず、必要に応じて下山や救助要請を検討することが大切です。医療面の判断については、事前にかかりつけ医に相談しておくことをおすすめします。
補給の「タイミング」と「量」の考え方
シャリバテを防ぐ核心は、空腹を感じる前に、こまめに補給することです。食事の間隔を長くあけてまとめて食べるのではなく、短い間隔で少量ずつ補給する習慣が山では有効です。
補給間隔の目安
一般的な考え方として、行動中は1〜1.5時間ごとに補給の機会を設けることが推奨されます。休憩のたびに何か口に入れる、と決めておくと忘れにくくなります。長い登りが続く場面では、休憩の間隔を短めにするか、歩きながらでも食べられる食料を手元に用意しておくと安心です。
補給に適した食料の特徴
登山中の補給食に求められるのは、①消化が速い、②携行しやすい、③食べやすい、の3点です。おにぎりやパンのような穀物系、ゼリー飲料、ドライフルーツ、チョコレートなどがよく使われます。消化に時間がかかる脂質の多い食品は、行動食より休憩・食事の場面に向いています。
水分との関係
脱水は消化吸収を遅らせるため、補給食と一緒に水分もとることが重要です。「食べたのに回復しない」と感じるときは、水分が足りていない場合があります。ただし一度に大量に飲むと胃に負担がかかるため、少量ずつこまめに飲む方が行動中は適しています。
行動食の計画と持ち歩き方
出発前に「どこで何を食べるか」をおおよそ決めておくと、補給のタイミングを守りやすくなります。以下の手順が参考になります。
- 行動予定時間を確認する コースタイムをもとに、何時間歩くかを把握します。
- 補給回数を数える 1〜1.5時間に1回として、必要な補給回数を計算します。
- 食料を回数分に分ける ジップロックや小袋に小分けにしておくと、ザックを開けなくても取り出せます。ウエストポーチや雨蓋(レインカバー上部のポケット)など取り出しやすい場所に入れましょう。
- 予備を加える 行程が延びたときや仲間が不足した場合に備えて、計算した量より1〜2回分多く持つのが基本です。
計画通りに食べられているかを山行中に意識する習慣をつけると、シャリバテのリスクは大きく下がります。「そういえば2時間以上食べていない」に気づくだけで十分です。
回復したあとの注意点
シャリバテから回復した後は、すぐに急ぎ足で歩き始めないことが大切です。補給後に血糖値が安定するまでには10〜20分ほどかかります。十分に休んで体が動くことを確認してから、ゆっくりペースで再開してください。
また、一度シャリバテになった日は体全体の疲労が蓄積しています。残りのコースタイムと自分の状態を照らし合わせ、無理のない判断をしてください。下山ルートの短縮や引き返しも選択肢に入れることを、恥ずかしいことではなく、正しい判断として認識しておきましょう。
次の行動
次回の山行に向けて、まず行動予定時間から補給回数を計算し、食料を小分けにしてザックに入れる位置を決めておきましょう。シャリバテの初期サイン(ペースの低下・集中力の散漫)を自分でチェックする習慣を意識するだけで、山での行動の安全マージンが広がります。一緒に歩く仲間と「何時間おきに補給タイムを取るか」をあらかじめ共有しておくと、グループ全体のペース管理にも役立ちます。YAMATOMOの「ベースキャンプ」や目的別コミュニティを活用して、経験者から行動食の具体的な選び方を聞いてみることもおすすめです。