登山から帰ったあと、ザックをそのまま乾燥させて収納している人は少なくありません。泥が乾けば払い落とせますし、一見きれいに見えます。しかし汗は繊維の奥に塩分と有機物を残し、時間をかけてナイロンやポリエステルの繊維を傷め、ファスナーの動きを悪くします。においの原因も主にここにあります。
洗う頻度の目安は「シーズン中は月に一度、または数回の山行ごと」が一般的な考え方です。汗を大量にかく夏山や、雨中を長時間歩いたあとは早めに洗うほうがよいでしょう。この記事では、ザックを傷めずに汗と汚れを落とす手順と、判断に迷う場面の考え方を整理します。
洗う前に確認すること
ザックの素材や構造によって、洗える方法が変わります。最初にやるべきことは、本体に縫い付けられたケアラベルを読むことです。「手洗いのみ」「洗濯機不可」「乾燥機不可」といった指定が書かれています。フレームが内蔵されているモデルは、洗う前にフレームを抜いてください。抜き方は取扱説明書や各メーカーの公式サイトで確認するのが確実です。
次に確認するのは撥水加工(DWR:Durable Water Repellency)の状態です。多くのザックはナイロン地に撥水コーティングが施されています。一般的な洗剤、とくに柔軟剤を含むものは撥水性を低下させやすいため、ザック専用またはアウトドア用の洗剤を使うことを勧めます。通常の衣類用液体洗剤を使う場合は、無蛍光・無柔軟剤タイプを選んでください。
手洗いの手順
洗濯機が使えないモデルや、初めて洗うときは手洗いが最も安全です。
- 全ポケットを空にし、ゴミや砂を取り出す。 ファスナーを全部開けて逆さにし、細かい砂や木の葉を払い落とします。砂が残ったまま濡らすと、繊維の隙間で研磨剤のように働きます。
- 水を張ったバスタブや大きな桶に、ぬるま湯(30℃前後)を用意する。 熱湯は縫い目のシームテープや樹脂パーツを傷めることがあるため避けます。
- 洗剤を溶かしてからザックを浸す。 全体を軽く押し洗いし、汗をよく吸うハーネス(肩ベルト)とヒップベルトは柔らかいブラシで優しくこすります。汗塩が結晶化して白くなっている部分は、少し長めに水を含ませてからブラシをあてると落ちやすくなります。
- すすぎを2回以上行う。 洗剤が残ると素材が劣化し、においの原因にもなります。すすぎ後に水を絞るときは、ねじらずに押して水を出してください。ねじるとフレームのスリーブや縫い目に余計な力がかかります。
- ファスナーを開けたまま、形を整えて陰干しする。 直射日光はナイロンの色あせと強度低下を招くため、風通しのよい日陰が適しています。ハーネス側を上にして干すか、スタンドに吊るすと内部まで乾きやすくなります。乾燥時間は気温・湿度によって異なりますが、完全に乾くまで次の収納は待ちましょう。生乾きのまま収納すると雑菌が繁殖し、においがつきます。
洗濯機を使う場合の判断基準
ケアラベルに洗濯機可の表示があれば、洗濯機を使うことができます。ただし条件があります。
- ドラム式洗濯機より縦型が適しています。 ドラム式は叩き洗いのため、バックル・ストラップが本体に打ち付けられてコーティングを傷めることがあります。やむを得ずドラム式を使う場合は、ストラップ類をすべてしまいこんでからネットに入れます。
- 洗濯ネットは必須です。 バックルやストラップが洗濯槽を傷つけることを防ぎます。ザックが収まる大型のネットを用意してください。
- コースは「手洗い」または「おしゃれ着」など、弱水流のものを選びます。
- 脱水は短時間か、脱水なしを選びます。 長時間の脱水はフレームスリーブの変形を招くことがあります。
- 乾燥機は基本的に使いません。 高熱でコーティングや樹脂パーツが変形・剥離するリスクがあります。
汚れの種類別の対処
泥
乾かしてから手でもみほぐし、ブラシで払い落とします。濡れた状態でこすると繊維に泥が入り込むため、先に乾燥させるのがポイントです。乾燥後に残った汚れは、上記の手洗い手順で対処します。
油脂・食べ物の汚れ
行動食を食べた手でザックを触ったり、ポケットに漏れたりしたものです。中性洗剤を少量つけた布でたたき洗いし、水で拭き取ります。シミが広がらないよう、外側から内側に向かって作業します。
カビ
長期間湿ったまま収納すると発生します。白い斑点状のカビは、カビ用の中性クリーナーを布に取り、こすらずにたたいて除去します。広範囲に広がっている場合や、撥水コーティングが同時に傷んでいる場合は、メーカーの修理・クリーニングサービスに相談することを勧めます。
ファスナーの汚れと動き
ファスナーは砂と塩分が詰まると動きが悪くなります。古い歯ブラシで歯の間を掃除したあと、ファスナー専用のワックスやシリコンスプレーを少量塗布するとスムーズになります。洗車用品や靴クリームなど油分の強いものは素材によっては変色するため、アウトドア用品向けのものを使ってください。
洗浄後の撥水加工の回復
洗浄によって撥水性が低下したと感じたら、撥水スプレーまたは洗濯機で使えるタイプの撥水剤で補います。完全に乾かしたあとに撥水処理を行い、その後30〜40℃の低温でアイロンを当てる(または乾燥機の低温設定を数分だけ使う)と撥水性が回復しやすくなります。ただしアイロンや乾燥機を使う前に必ずケアラベルを再確認してください。熱に弱い素材や部位があります。
次の行動
今シーズン最後の山行を終えたら、収納前に一度ザックを手洗いして完全乾燥させておきましょう。春に取り出したときの不快なにおいと汚れが防げます。ハーネスの汗汚れが特に気になる場合は、洗浄後の状態でストラップのほつれやバックルのひびも合わせて点検しておくと、来シーズン前の買い替え判断がしやすくなります。YAMATOMOアプリの加盟店検索では、メンテナンスや修理を相談できる登山ショップを探すことができます。
参考資料
- 各ザックメーカーの取扱説明書およびケアガイド(各メーカー公式サイト)
- 繊維製品品質表示規程(消費者庁)