富士山の登山シーズンは短い。山梨・静岡両県の各登山道が開山する期間はおおむね夏の2か月前後に集中し、その短い窓に国内外の登山者が集中します。混雑のピークには登山道の渋滞、山小屋前の長い列、頂上でも身動きが取りにくい状況が起きます。
「混雑を避けたい」と思う読者の多くが知りたいのは、「いつ行けばましか」「どのルートを選べばよいか」という二点に絞られます。この記事では、曜日・時間帯・ルートそれぞれの選び方を、具体的な判断基準とともに整理します。なお、開山期間・規制内容・各ルートの通行状況は年によって変わります。必ず最新情報を山梨県・静岡県の公式ページや各登山口の案内で確認してください。
混雑のしくみを把握する
富士山の混雑には二つの軸があります。「シーズン内のどの週か」と「その週の何曜日・何時か」です。
シーズン全体で見ると、お盆を含む7月下旬〜8月中旬が最も登山者数が多くなる傾向があります。8月下旬以降は徐々に人が減り始め、閉山間近になると気温が下がるため装備のハードルが上がり、混雑は和らぎます。一方、開山直後(7月初旬前後)も登山者が集中しやすい時期です。残雪・悪天候のリスクが高い時期でもあるため、初心者には向きません。
週の単位で見ると、土曜・日曜・祝日と平日では人数に大きな差があります。山小屋の予約状況も週末は埋まりやすく、平日は取りやすい傾向があります。山小屋を利用して御来光を狙う行程を組む場合、平日出発を選ぶだけで体感できる混雑は相当変わります。
曜日の選び方——平日を狙う根拠
混雑を減らすうえで最も効果が大きい選択は、平日に登ることです。とくに月曜〜木曜の出発は、週末と比べて登山者数が少ない傾向があります。
ただし、平日であっても注意が必要な場面があります。
- 祝日が絡む連休の中日は平日でも混雑します。
- 夏休み期間中の平日(学校休業中の7月下旬〜8月)は、家族連れや外国人観光客が多く、平日効果が薄れます。
- 8月末〜9月の平日は、夏休み明けで登山者数が落ち着くため、シーズン中で最も混雑が少ない時期の一つです。ただし閉山日を超えた登山は規制の対象になることがあるため、各ルートの閉山日を山梨県・静岡県の公式情報で必ず確認してください。
平日を選ぶだけで、登山道の渋滞、山小屋の混雑、頂上の過密のいずれも緩和できる可能性が高まります。
時間帯の選び方——弾丸登山と御来光渋滞を避ける
富士山の混雑には時間帯のパターンがあります。
夜間〜明け方の渋滞は、日帰りで御来光を目指す「弾丸登山」の登山者が集中することで起きます。五合目を深夜に出発し、頂上で御来光を見てそのまま下山する行程です。山小屋に泊まらず体を休める時間がないため体力の消耗が激しく、高山病のリスクも高まります。この時間帯の山道は特に混み合い、すれ違いや追い越しが困難になります。
初心者が御来光を見たい場合は、五合目付近や七合目の山小屋で前泊し、翌朝に頂上を目指す行程を検討してください。出発時刻を深夜ではなく早朝(午前3〜4時台)に設定すると、弾丸組のピークの後ろに入ることなく頂上に近づけます。
昼過ぎ〜午後の下山渋滞も見落とされがちなポイントです。御来光後に下山する登山者と、昼から登り始める登山者がすれ違う時間帯に、登山道が詰まります。下山はできる限り午前中のうちに済ませるか、午後の雷雨(夏の富士山では午後に急変しやすい)を考慮して、余裕ある計画を立ててください。
ルートの選び方——四つの登山道の混雑比較
富士山には主に四つの登山道があります(吉田ルート・須走ルート・御殿場ルート・富士宮ルート)。それぞれ登山口のアクセス・標高・行程の長さが異なります。
- 吉田ルート(山梨側)、登山口標高の目安:約2,300m、特徴:登山者数が最も多い。山小屋が多く初心者には安心だが、混雑も最大
- 富士宮ルート(静岡側)、登山口標高の目安:約2,400m、特徴:最短距離で頂上に近い。吉田に次いで人気が高い
- 須走ルート(静岡側)、登山口標高の目安:約2,000m、特徴:五合目の標高が低く行程が長い。吉田・富士宮より登山者が少ない
- 御殿場ルート(静岡側)、登山口標高の目安:約1,400m、特徴:四ルートで最も標高が低く行程が長い。登山者数は最も少ない
混雑を避けたいという観点だけで選べば、須走ルートまたは御殿場ルートが選択肢になります。ただし、御殿場ルートは標高が低い出発点から長い距離を歩くため、体力的な負担が大きく、初心者には難易度が上がります。
須走ルートは吉田ルートより混雑が少なく、七合目より上では吉田ルートと合流するため山小屋も利用しやすいです。ただし、合流地点以上は吉田ルートの混雑の影響を受けます。
初心者が混雑を少しでも和らげたい場合は、須走ルートを平日に登るという組み合わせが現実的な選択肢の一つです。 御殿場ルートは体力・準備に自信がついてから検討してください。
なお、山梨県は2024年に吉田ルートで登山者数の制限や通行規制を導入しました。規制の内容・時間帯・期間は変更される可能性があるため、登山前に山梨県の公式情報を確認することが必須です。
計画を立てるときの判断フロー
混雑を避けるための要素を整理すると、次の順番で判断するのが実用的です。
- シーズンを選ぶ:8月下旬〜閉山前の平日が混雑の少ない時期。閉山日は年によって異なるため公式情報で確認する。
- 曜日を選ぶ:月〜木の平日。連休・夏休み中は効果が薄れる点を考慮する。
- 行程を組む:弾丸登山を避け、五合目か七合目の山小屋に前泊する。山小屋は予約制のため、平日でも早めに予約する。
- ルートを選ぶ:混雑を優先するなら吉田を避け、須走か御殿場を検討する。初心者は須走が入りやすい。
- 直前に確認する:天気予報(気象庁・山岳気象専門サービス)、規制・通行止め情報(山梨県・静岡県・各山小屋の公式サイト)を出発前日に必ず確認する。
この五つを組み合わせると、同じ富士山でも体験できる混雑の程度はかなり変わります。完全に人を避けることは難しいですが、過密な状況を一定程度コントロールすることは可能です。
次の行動
まず、登山を計画している週の天候と各ルートの規制情報を山梨県・静岡県の公式ページで確認してください。山小屋の空き状況は早い時期から変動するため、平日を決めたらすぐに予約を入れることをおすすめします。YAMATOMOの「ベースキャンプ」では同じ時期に富士山を目指す登山者とつながることもできます。混雑の少ない時期と行程が固まったら、装備と高山病対策の準備に進んでください。
参考資料
- 山梨県「富士山登山ポータルサイト」
- 静岡県「富士山登山情報」
- 気象庁「山岳気象情報」
- 警察庁「山岳遭難の概況」(各年版)