富士山には、山梨県側から登る吉田ルート、静岡県側から登る須走・御殿場・富士宮の3ルートを合わせ、計4つの主要登山道があります。「どのルートが初心者向けか」という問いに対し、多くの案内は「吉田ルートが整備されていて安心」と答えます。ただしその理由と、他のルートと何がどう違うのかを理解しておかないと、自分の出発地や体力・日程に合った選択ができません。
4ルートの差は「標高差・歩行距離・山小屋の数・下山道の分離」という4つの軸でほぼ説明できます。この記事では、その4軸を使って各ルートを整理し、初めて富士山を目指す人が「自分はどれを選ぶべきか」を判断できるところまで案内します。なお、開山期間・規制・山小屋の営業状況は年によって変わります。最新情報は山梨県・静岡県の富士山登山に関する公式サイトや、各ルートの五合目山小屋・管理事務所で必ず確認してください。
4ルートを比べる4つの軸
ルートを選ぶときに実際に効いてくる要素は次の4つです。
① 標高差(五合目から山頂まで)五合目の標高はルートによって大きく異なります。富士宮は約2,400m、吉田・須走は約2,000〜2,300m、御殿場は約1,440mとかなり低い位置からのスタートになります。標高差が大きいほど体力消耗と高山病のリスクが上がります。
② 歩行距離と累積標高差御殿場ルートは五合目の標高が低いぶん、往復の距離と登りの標高差が最も大きくなります。体力に自信がない場合は、この数字が判断の根拠になります。
③ 山小屋の数と間隔山小屋は休憩・宿泊・緊急時の避難拠点になります。吉田ルートは山小屋の数が最も多く、間隔も短めです。御殿場ルートは山小屋の数が少なく、区間によっては補給できない長い登りが続きます。
④ 登り・下りのルート分離吉田ルートのみ、登山道と下山道(富士吉田口下山道)が八合目以下で分かれています。これにより渋滞が緩和され、すれ違いによる転倒リスクが下がります。他の3ルートは基本的に同じ道を往復します。
各ルートの特徴と難易度
吉田ルート(山梨県側)
初心者に最も広く案内されるルートです。理由は明確で、五合目から山頂まで山小屋が最も多く配置されており、道標も充実しています。登り・下りのルート分離により、下山時に砂走り(砂や砂利の急斜面)を使う須走ルートと合流する区間はあるものの、大部分は人の流れが整理されています。アクセスは富士スバルライン五合目からで、公共交通機関(バス)でのアクセスも他ルートに比べて選択肢が多い傾向があります。
難しい点は、登山者数が集中することです。開山期間の週末は山小屋・山頂ともに混雑し、山頂付近の渋滞で立ち止まりが増えると体が冷えます。防寒と時間に余裕を持った計画が必要です。
須走ルート(静岡県側)
五合目の樹林帯から歩き始めるため、最初は植生の中を進む独特の雰囲気があります。八合目で吉田ルートと合流し、そこから山頂まで同じ道を歩きます。下山は「砂走り」と呼ばれる火山礫の斜面を駆け下りるように下れるため、膝への衝撃が吉田ルートの下山道より少ないと言われますが、砂が靴に入りやすいので、ゲイター(スパッツ)は必須です。
山小屋の数は吉田ルートより少なく、整備状況もやや変わります。吉田ルートより登山者が少ないため、静かに登りたい人に選ばれることがあります。ただし「少ない」とはいえ夏の富士山の比較であり、油断は禁物です。
御殿場ルート(静岡県側)
4ルート中、最も体力を要するルートです。五合目の標高が低く、山頂まで標高差と距離が最大になります。山小屋の数も少なく、宝永山(標高約2,693m)周辺を経由するプランもあるため、ルート計画が他より複雑になります。下山には「大砂走り」という長い砂礫斜面があり、その爽快さを目当てに来る経験者も多いです。
初心者には推奨しにくいルートですが、「別の山で日帰り登山を何度も経験している」「宿泊前提で余裕ある計画を立てられる」場合は選択肢になります。静岡県側のアクセス拠点から入りやすい地域の人には、須走や富士宮と合わせて比較する価値があります。
富士宮ルート(静岡県側)
五合目の標高が最も高く、山頂までの標高差は4ルート中で最も小さくなります。距離も短いため「楽に登れる」と思われがちですが、標高が高いところからスタートするぶん、高山病が出やすい条件でもあります。順応時間(五合目でゆっくり過ごす時間)を十分に取ることが特に重要です。
ルートはほぼ一本道で迷いにくく、道の明確さという点では吉田ルートに次いで案内が充実しています。富士山本宮浅間大社奥宮(山頂)への参拝を目的に選ぶ人も多いです。新幹線を使う場合、新富士駅・三島駅からのバスアクセスが取りやすい地域の人にはアクセス面での利点があります。
初心者が「吉田ルート以外」を選んでよい条件
「初心者は吉田ルート一択」というわけではなく、出発地によっては静岡側のルートが合理的な場合があります。次の条件を参考に判断してください。
- 富士宮ルートを検討できる条件:静岡県東部・神奈川県西部など富士宮口にアクセスしやすい地域に住んでいる。日帰り・1泊のどちらも視野に入れている。五合目での順応時間を1時間以上確保できる計画を立てられる。
- 須走ルートを検討できる条件:砂走りを使いたい。静岡県東部や御殿場方面からのアクセスが便利。吉田ルートの混雑を避けたい。八合目合流以降は吉田ルートと同じ道であることを理解している。
- 御殿場ルートは避けるべき条件:富士山が初めての登山、または日帰り登山の経験が少ない。山小屋の少なさ・長い行動時間・大きな標高差に対応できる体力と計画に自信がない。
いずれのルートでも、高山病対策・防寒・ヘッドランプ・雨具は共通の必需品です。
ルート選びの前に確認すること
4ルートそれぞれに、入山規制・通行料(環境保全協力金を含む)・山小屋の予約状況・バスの時刻が存在します。これらは年によって変更されるため、次の確認先を必ずチェックしてください。
- 山梨県(吉田ルート):山梨県富士山保全・観光エコシステム推進グループや、富士山吉田口旅館組合などの公式情報
- 静岡県(須走・御殿場・富士宮ルート):静岡県富士山世界遺産課や、各ルートの五合目山小屋・ビジターセンターの公式情報
- 気象情報:気象庁の山岳気象情報および週間天気予報
- 交通アクセス:各バス会社・鉄道会社の公式時刻表(季節運行のため確認が特に重要)
開山期間外は登山道の整備状況や山小屋が閉まっていることが多く、安全管理の水準が大きく変わります。開山期間内での登山計画を強く推奨します。
次の行動
まず、自分の出発地から各五合目へのアクセス時間を調べ、「往復の交通込みで現実的に動ける計画」がどのルートで組めるかを確認してください。アクセスが決まれば、そのルートの山小屋予約と気象の確認を早めに進めましょう。YAMATOMOの「ベースキャンプ」では同じルートを経験した登山者と交流でき、最近の道の状態について生の情報を得るきっかけになります。
参考資料
- 山梨県 富士山登山に関する公式情報
- 静岡県 富士山世界遺産課 登山情報
- 気象庁 山岳気象情報
- 富士山スカイライン(静岡県道152号)関連の規制情報