2026年9月時点で、浅間山の噴火警戒レベルは1です。3年ぶりに前掛山の山頂まで歩けます。ただし「規制がなくなった」わけではありません。レベル1でも山頂火口から500m以内は立入禁止で、いちばん高い本峰には近づけません。前掛山は、規制線の手前に用意された到達点です。9月27日までは長野県の火山防災月間でもあります。この秋の浅間山を、噴火警戒レベルという物差しから読み解きます。
3年ぶりに前掛山へ——2026年5月の規制緩和
気象庁が浅間山の噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)から1(活火山であることに留意)へ引き下げたのは、2026年5月22日11時のことでした。翌23日に小諸市が登山規制を緩和し、前掛山(2,524m)までの登山道が開きました。2023年3月にレベル2へ上がって以来、およそ3年ぶりの再開です。
引き下げの根拠は、意外なほど地味です。気象庁は、火山性地震が2025年7月頃から減少し2026年4月下旬以降さらに減ったこと、地殻変動と火山ガス(二酸化硫黄)の放出量に活動の高まりを示す変化がないことを挙げ、「山頂火口から500mを超える範囲に影響を及ぼす噴火の可能性は低くなった」と判断しました。何かが起きたから開いたのではなく、何も起きない状態が積み上がったから開いた、という順番です。
受け入れ側の動きは早く、こもろ観光局は8月11日の山の日から前掛山の「登頂証明書」(500円)の発行を再開しています。山と溪谷オンラインの山行記録によれば、緩和直後には早朝で登山口の駐車場が埋まる日もありました。
噴火警戒レベルと、自治体が示す登山道の規制を確認する
噴火警戒レベルは、火山活動に応じた警戒が必要な範囲と、防災対応を示すものです。単なる距離の尺度や登山の許可証ではありません。浅間山でもレベルとあわせて、小諸市などが示す最新の規制図と指定ルートを確認します。
気象庁のレベル表によれば、警戒が必要な範囲はレベル1で山頂火口から500m、レベル2で概ね2km、レベル3で概ね4kmへと広がります。浅間山ではさらに、そのレベルでどの登山道を歩いてよいかまで事前に決められています。小諸市の案内を要約すると、こうなります。
- レベル1:火山館コース・黒斑コースとも、前掛山まで登れます。
- レベル2:前掛山へは行けません。小諸市が示す外輪山の指定ルートには黒斑山・仙人岳・Jバンド等を経る経路がありますが、任意の場所を歩けるわけではありません。最新の規制図で確認します。
- レベル3以上:歩ける範囲はさらに狭まり、レベル4・5では入山できません。
レベルが変わった際は、数字だけで行先を判断せず、その時点の自治体の通行案内を確認します。前掛山が最高到達点である理由も同じで、本峰である釜山の火口縁が500m圏に入るからです。百名山の一座を踏んだつもりでも、浅間山でいちばん高い場所には、レベル1でも触れられません。
浅間山のレベルは約11年で11回動きました
群馬県が公開している噴火警戒レベルの履歴を並べると、この山の性格が見えてきます。2015年6月に1から2、2018年8月に1、2019年8月に3、同じ月のうちに2、11月に1、2020年6月に2、2021年2月に1、3月に2、8月に1、2023年3月に2、そして2026年5月に1。約11年で11回です。2019年8月7日夜には噴火が起き、気象庁の資料によれば、およそ30分後に降灰予報が発表されています。
「去年登れたから今年も登れる」が、日本の百名山の中でも最も通用しにくい山だと考えます。富士山や北アルプスの多くの山なら、開通時期と小屋の営業期間さえ押さえれば、計画の骨格は毎年ほぼ同じです。浅間山は骨格そのものが年ごとに入れ替わります。地図やコースタイムを眺める前に、気象庁の噴火警報のページを開く。この順番を習慣にしておくと、片道3時間の無駄足を減らせます。
黒斑山という保険——10月のカラマツと外輪山
前掛山が閉じているときでも歩けることが多いのが、外輪山の黒斑山(2,404m)です。小諸市の案内では、レベル2でも黒斑山までは歩けます。ただしレベルがさらに上がれば黒斑コースも制限されますから、「いつでも登れる山」ではありません。
起点は車坂峠。高峰マウンテンパークの無料駐車場は約800台と大きく、コースタイムは約3〜4時間です。トーミの頭から先に出ると、外輪山の内側の崩れた壁ごしに、前掛山と本峰が正面に立ち上がります。火山を登るためではなく、火山の断面を見るために歩けるルートは、そう多くないと思います。
秋の狙いは10月です。紅葉情報サイトのWalkerplusによれば、高峰高原の見頃は例年10月上旬から11月上旬とされます。カラマツは針葉樹でありながら落葉し、黄葉のタイミングが広葉樹より遅い。だから紅葉が終わったと思った頃に、山腹がもう一度金色になる週が来ます。
前掛山を目指す場合の一般的な起点は、天狗温泉浅間山荘からの火山館コースです。往復約7時間、駐車場は1台500円(約300台)。下山後に鉄分を含む赤い湯へ入れるのが、この登山口の役得です。
9月27日まで「信州 火山防災月間」、ヘルメットは借りられます
長野県は毎年8月26日から9月27日までを「信州 火山防災月間」、9月27日を「信州 火山防災の日」と定めています。2014年9月27日の御嶽山噴火災害を風化させないための制定で、県内の常時観測火山である浅間山・焼岳・乗鞍岳・御嶽山が対象です。信濃毎日新聞によれば、月間の初日には車坂峠の登山口で、県と気象庁、地元3市町の職員が、ヘルメット携行を含む注意点をまとめた資料を配布しました。
そのヘルメットは、買わなくても借りられます。小諸市によれば、火山館のほか、天狗温泉浅間山荘・高峰高原ホテル・高峰高原ビジターセンターなど各登山口の施設で貸出があります(数に限りがあります)。あわせて、長野県登山安全条例により指定登山道では登山計画書の提出が義務づけられています。小諸市はさらに、ヘッドライトを携行せず日没後に道に迷う遭難が数件起きていると注意を促しています。火山の装備というと噴石対策に話が集中しがちですが、実際に人を助けている装備は、もっと平凡な場所にあるようです。
まとめ:レベルを確かめ、行き先を二つ持って出る
浅間山の秋を組み立てる手順は、三つだけです。気象庁で現在のレベルを確かめる。小諸市の案内で、そのレベルなら「どこまで」歩けるかを確かめる。そして前掛山と黒斑山の二つを候補として持って出発する。この三段構えなら、前日にレベルが動いても山行そのものは崩れません。
火山を歩くとは、山の状態に合わせてこちらの計画を作り替える、という約束を引き受けることだと考えます。浅間山はその約束を、立入禁止の半径と登山道の指定という形で明文化してくれている、珍しく親切な山でもあります。2026年の秋は、その約束の上で山頂まで行ける年です。地形やルートの成り立ちは、YAMATOMO の山ページ(https://yamatomo.net/mountains/asama/)にまとめています。
参考資料・出典
- 気象庁「浅間山の噴火警戒レベルを1へ引下げ(令和8年5月22日 報道発表)」
- 気象庁「火山活動の状況(浅間山)」
- 気象庁「浅間山の噴火警戒レベル(火山災害から身を守るために)」
- 気象庁「令和元年(2019年)8月7日 浅間山の噴火で発表した降灰予報について」
- 小諸市「浅間山登山のご案内」
- 長野県「「信州 火山防災の日」情報」
- 群馬県「浅間山情報(過去分)」
- こもろ観光局「8/11山の日から浅間山・前掛山「登頂証明書」発行サービス再開のお知らせ」
- こもろ観光局「浅間山へ行こう|登山口・アクセス・登山コースガイド」
- 山と溪谷オンライン「約3年ぶりに前掛山へ。規制緩和後の浅間山を歩く」
- 信濃毎日新聞デジタル「長野県で「火山防災月間」がスタート 御嶽山と浅間山で安全な登山を呼びかけ」
- Walkerplus「高峰高原の紅葉(紅葉名所)」