登山で日焼け止めが必要なのは「見た目」の問題だけではありません。高度が上がるほど紫外線量は増し、森林限界を超えた稜線では遮るものがない状態が数時間続きます。短時間で皮膚が赤くなる高山の紫外線は、痛みや疲労感にも直結します。
問題は、山で使う日焼け止めが「汗・水・摩擦」という三重の消耗要因にさらされる点です。平地向けに設計されたものを塗っただけでは、登り始めて1時間もたたないうちに効果が薄れていることがあります。この記事では、登山の条件に合う製品の選び方と、行動中の塗り直し方を具体的に整理します。
なぜ山では日焼け止めが落ちやすいのか
登山中の日焼け止め消耗は、主に三つの原因が重なります。
発汗量が多い。急登での発汗は平地の数倍に達することがあり、水溶性の成分を含む日焼け止めは汗とともに流れ落ちます。
摩擦が加わる。帽子のつばや首元のバフ(チューブ型のネックウォーマー)、ザックのショルダーハーネスが肌に当たり続けることで、塗った層が物理的に削られます。
行動時間が長い。日帰り登山でも4〜8時間は行動するのが普通です。日焼け止めの効果持続を示すSPF・PA値はあくまでも「均一に塗布した直後」の値であり、消耗が進んだ状態では保護効果は大きく下がります。
この三つを念頭に置くと、選ぶべき製品と塗り直しのタイミングが自然に見えてきます。
選び方の判断基準
SPF・PA値の目安
高山の稜線歩きや残雪期のように紫外線が強い場面では、SPF50+・PA++++を基準にするのが一般的です。樹林帯が長い低山日帰りでもSPF30〜50・PA+++は確保しておくと安心です。ただし、数値が高ければ塗り直しが不要になるわけではありません。消耗速度は環境と汗の量で変わるため、数値だけで判断しないようにします。
耐水性(ウォーターレジスタント)の表示
日本では薬機法の関係で「耐水性」の表示基準が製品によって異なります。海外製品では「Water Resistant 80 minutes」のように分単位で表示するものがあり、比較の目安になります。国内製品を選ぶ場合は「汗・水に強い」「スポーツ用」と明記されているものを選び、使用方法の欄に「汗をかいた後は塗り直す」と書かれているかどうかも確認します。
剤型の選び方
- クリーム・乳液、向く場面:顔・首・腕の最初の塗布、注意点:ベタつきが気になる場合は薄めに
- スティック、向く場面:行動中の塗り直し、目の周り、注意点:塗り広げやすく手を汚さない
- スプレー、向く場面:腕・首など広い面積、注意点:風があると飛散する、吸い込まないよう注意
- パウダー、向く場面:化粧直しと兼用、注意点:UVカット効果は補助的に考える
行動中の塗り直しを確実にするには、クリームで下地を作り、スティックかスプレーで塗り直すという組み合わせが実用的です。
顔と体で製品を使い分けるか
顔用は目への刺激が少ない処方になっているものが多く、目の周りはとくに慎重に選びます。体用はコストパフォーマンスを重視して大容量のものを選び、腕・首・手の甲などに使うのが現実的です。
塗り方と量
日焼け止めの効果は量に大きく依存します。少なすぎると表示されたSPF値を発揮しません。顔全体への塗布量の目安として、パール粒2個分(約0.5〜1g)を2回重ね塗りする方法が一般的に推奨されています。一度に厚く塗るより、薄く2回に分けて塗る方が均一に仕上がります。
塗り忘れやすい部位を意識することも重要です。耳の縁・耳の後ろ、鼻の頭、首の後ろ、唇(日焼け止め入りリップクリームを使う)、手の甲、足首(靴下とパンツの隙間)は盲点になりがちです。
出発前に自宅や駐車場で丁寧に塗り、歩き始める15〜20分前に塗り終えておくと、皮膚へのなじみが安定します。
行動中の塗り直しタイミングと方法
塗り直しは「汗をかいたら」ではなく、時間を決めて行うのが確実です。
- 出発から2時間後を最初の塗り直しの目安にします。汗で流れる前に重ね塗りすることで、保護効果を切らさずに維持できます。
- 稜線に出る前に必ず塗り直します。樹林帯を抜けた瞬間から紫外線量が跳ね上がるため、樹林帯の最後の休憩で塗り直すのが効率的です。
- 雨や沢の渡渉の後は、耐水性製品であっても表面の膜が乱れているため、水分を軽くふき取った後に塗り直します。
休憩中に塗り直す際は、汗や汚れを軽くふき取ってから塗ると密着度が上がります。ただし、強くこすって摩擦を与えると肌を傷めるため、タオルで軽く押さえる程度にします。スティックタイプはザックのヒップベルトのポケットや行動食のポーチに入れておくと、休憩のたびに取り出しやすくなります。
よくある失敗と対策
「曇りだから塗らなかった」:曇天でも紫外線の大部分は地表に届きます。雲の状態によっては快晴より紫外線が強くなることもあります。天候に関わらず塗る習慣をつけます。
「日焼け止めと虫除けをどちらが先か迷う」:一般的には日焼け止めを先に塗り、なじんでから虫除けを重ねる順番が推奨されています。ただし製品によって指示が異なるため、各製品の使用方法を確認します。
「ザックの中に入れて忘れる」:塗り直し用の小分けは、必ず取り出しやすい場所に入れます。出発前に「ザックのどこに入れたか」を確認するチェック習慣が有効です。
「目に入ってしみた」:汗と一緒に目に流れ込むことがあります。額への塗布量を控えめにし、汗止めバンドや帽子のつばで汗を受け止める工夫を組み合わせます。
次の行動
出発前日に、日焼け止め・塗り直し用のスティックまたはスプレー・汗ふきタオルをセットにしてポーチにまとめておきます。当日の朝、出発15〜20分前に全身に塗り、ポーチをザックの取り出しやすい場所に固定します。登山コースと天気が決まったら、YAMATOMOの登山記録や「ベースキャンプ」で同じルートを歩く仲間の情報を参考に、その山域の紫外線環境や季節の注意点を事前に確認しておくと準備の精度が上がります。
参考資料
- 気象庁「紫外線に関する情報」
- 国立環境研究所「紫外線環境保健マニュアル」
- 日本皮膚科学会「紫外線対策・光線過敏症」