レインウェアを選ぶとき、スペック表に並ぶ「透湿性20,000g」「透湿性30,000g」という数字を見て、大きければ大きいほど良いのだろうと判断した経験がある方は多いかもしれません。数字の意味を理解せずに購入すると、雨の中で汗が逃げず、結果として濡れたような不快感を覚えるケースがあります。
この記事では、透湿性の数値がどのような条件で測られたものか、そして山行のシーンごとにどの数字を目安にすればよいかを整理します。防水性の数字(耐水圧)との組み合わせ方も含め、スペック表を読み解く判断基準を示します。
透湿性の数字は何を測っているのか
透湿性の単位は「g/m²/24h」です。1平方メートルの生地が24時間で何グラムの水蒸気を通過させるかを示します。登山用レインウェアでは、汗として発生した水蒸気が外へ逃げる能力を表す指標として使われます。
ただし、この数値には測定方法による大きな差があります。代表的な方法は「JIS L 1099 A-1法(吸湿法)」と「B-1法(蒸発法)」の二種類です。A-1法は塩化カルシウムを使って水蒸気を吸収させる古典的な手法で、比較的低い数値が出ます。B-1法は生地の下側を高温多湿の状態にして蒸発量を測るため、同じ生地でも数値が数倍高く出ることがあります。さらにメーカー独自の測定条件を用いる場合もあり、異なるブランドの数値を単純に比較することは難しいのが現状です。
スペック表を見るときはまず、測定方法の表記があるかどうかを確認することが出発点になります。表記がない場合は、同一ブランドのラインナップ内での上下関係を読む参考にするにとどめる方が安全です。
耐水圧との組み合わせで見る
透湿性だけを単独で判断するのではなく、耐水圧とセットで読む習慣をつけると選択が整理されます。
耐水圧は「mm」で表され、生地に水柱を立てたとき何ミリまで浸透しないかを示す数値です。一般的に、小雨なら500mm前後、強い雨には1,500〜2,000mm以上、登山では10,000mm以上を目安にするとされています。
透湿性と耐水圧は、構造上ある程度トレードオフの関係にあります。防水層を厚くしたり目を細かくしたりすれば耐水圧は上がりますが、水蒸気が通り抜ける抵抗も増えて透湿性は下がりやすくなります。このバランスをどこに置くかが、生地技術とコストの差に現れます。
実用的な目安として、登山向けとして広く流通している製品は耐水圧20,000mm前後・透湿性20,000g前後の組み合わせが多く見られます。稜線での強雨や長時間の行動を想定するなら、この水準を一つの基準線にしながら、測定方法の違いを割り引いて読むと判断しやすくなります。
数値が同じでも体感が変わる理由
スペック表の数字が同水準でも、着用時の快適さに差が出ることがあります。理由は主に三つです。
構造の違い:2レイヤー・2.5レイヤー・3レイヤーという積層構造の差です。3レイヤーは表地・防水透湿メンブレン・裏地が一体化しており、メンブレンが直接肌側の湿気を受け取らないぶん透湿の流路が安定しています。2レイヤーは裏地が別体か省略されるため、汗がメンブレンに直接触れやすく、冷えたときにべたつく感触が出やすい傾向があります。
内外の温度差・湿度差:透湿は濃度勾配(内側の湿度が外側より高い状態)によって起こります。外気が高温多湿の夏の低山では、内外の湿度差が小さくなるため数値どおりに水蒸気が逃げにくくなります。逆に冷涼な高山では差が生じやすく、透湿が機能しやすい環境になります。
撥水処理の劣化:表地の撥水処理(DWR)が落ちると、表地が水を吸い込んで湿った状態になります。この状態をウェッティングアウトといい、透湿の出口が塞がれるため、メンブレンの性能にかかわらず蒸れが増します。使用・洗濯のたびに撥水性は少しずつ低下するため、定期的な撥水スプレーや熱処理による撥水再生が重要です。
これら三つの条件は、スペック表の数字には現れません。数値は選ぶ入口として使い、最終的な判断材料にはなりにくいと覚えておくと有用です。
行動スタイル別の選び方の考え方
透湿性の目安は、主な行動の強度と環境によって変わります。
稜線・縦走・長時間の有酸素運動
発汗量が多く、天候が変わりやすい環境です。透湿性の高い製品を選ぶ理由が最もはっきりするシーンです。同一ブランド内で「アルパイン」「マウンテニアリング」などと区分されるラインが対応します。3レイヤー構造で軽量なものが多く、行動中の蒸れを抑える設計がされています。
森林帯・低山・ハイキングペース
発汗量は比較的少なく、樹林が風を遮るため外気の状態が安定しています。透湿性の数値が多少低くても実用上の差は小さくなります。2.5レイヤーや2レイヤーの製品でもコストと重量のバランスが取りやすい選択肢です。
停滞・ビレイ・待機時間が長い場面
行動停止中は発汗が少なくなる一方、雨や風への曝露時間が長くなります。この場面では耐水圧を優先し、透湿性はそれほど重視しなくてよいケースがあります。インサレーションとの重ね着を前提に設計された製品も検討に入ります。
購入前に確認すべき三つの手順
数値だけで判断するのではなく、以下の順序で整理すると選択が絞られます。
- 測定方法の確認:スペック表または公式サイトで透湿性の測定方法が記載されているか確認します。記載がない場合は同ブランド内での比較に使うにとどめます。
- 耐水圧との組み合わせ確認:自分が想定する山行の雨の強さ・時間に耐水圧が対応しているかを先に確認します。防げない雨では透湿性は意味をなしません。
- レイヤー構造と重量の確認:使うシーンで許容できる重量と、構造(2・2.5・3レイヤー)を照合します。カタログの用途区分(ハイキング・マウンテニアリングなど)はメーカーが想定する行動強度を反映しているため、参考になります。
次の行動
レインウェアを選ぶ際は、透湿性の数値をそのまま比較するのではなく、測定方法・耐水圧・レイヤー構造の三点とあわせて読む習慣をつけてください。山行計画が具体的に固まっているなら、想定する標高・季節・行動時間をもとに優先する性能を決めてから製品を絞ると判断が早くなります。YAMATOMOの加盟登山ショップでは専門知識を持つスタッフに相談できる場合があります。詳しくはYAMATOMOアプリの加盟店検索で確認してみてください。
参考資料
- JIS L 1099(繊維製品の透湿度試験方法):日本産業標準調査会(JISC)
- 繊維製品の試験・評価に関する解説:一般財団法人ボーケン品質評価機構などの公開資料