縦走の計画で最初につまずくのは、「何時間歩けるか」と「どこで泊まるか」を同時に決めようとするときです。地図を広げてルートを引いても、コースタイムをそのまま積み上げると現実とずれが生じ、初日に予定の宿泊地へ着けないことがあります。
この記事では、1日の行動時間の上限の決め方、宿泊地の選び方と順序の考え方、そして計画全体を組み直す判断基準を順に説明します。日帰りを重ねてきた人が初めて2泊以上の縦走に挑むときに、計画の骨格をつくる手順として読んでください。
1日の行動時間をどう決めるか
縦走の計画でよく使われる「コースタイム」は、登山地図の出版社が設定した標準的な所要時間です。個人の体力・荷物の重さ・天候によって前後しますが、まず自分のコースタイム比(実際に歩いた時間 ÷ コースタイム)を日帰り山行で把握しておくことが出発点になります。
縦走では、このコースタイム比に加えて「疲労の蓄積」を見込む必要があります。1日目は体が動いても、2日目以降は同じペースを維持できないことが多いです。経験者の多くは、縦走の計画では「日帰りで快適に歩ける時間の8割」を1日の上限として扱います。たとえば日帰りで7時間歩いても余裕があると感じる人でも、縦走の各日は5〜6時間程度に設定しておくと、後半の疲労・天候待ち・道迷いのロスを吸収しやすくなります。
行動時間の内訳を分解する
コースタイム上の「歩行時間」に加えて、以下の時間が実際には必要です。
- 出発準備と撤収:テント泊なら朝の撤収に30〜60分、山小屋でも身支度・朝食で30分程度
- 休憩:2時間ごとに10〜15分が目安。食事休憩は別途30分程度
- 写真撮影・地図確認・給水:稜線のコルや分岐ごとに5〜10分がつぶれることがあります
- 予備時間:計画全体の10〜15%を余白として確保する
これらを合算すると、「歩行6時間」の計画でも出発から行動終了まで8〜9時間になることは珍しくありません。日没時刻から逆算して行動終了時刻を決め、そこから起算して必要な出発時刻を導くのが安全側の考え方です。日没時刻は気象庁の日出没時刻の情報などで事前に確認してください。
宿泊地の選び方——場所より「順番」を先に決める
宿泊地は「泊まりたい場所」ではなく「その日の行動時間に収まる場所」から選ぶのが基本です。気に入った山小屋やテント場を先に決めてしまうと、そこへ至るコースタイムが合わなくなり、無理な行程を組む原因になります。
宿泊地候補の絞り込み手順
- 全行程のコースタイムを出す:縦走全体の合計コースタイムを出し、計画日数で割ります。これが1日あたりの「目標コースタイム」です。
- 区間ごとの宿泊候補を地図上に拾う:山小屋・テント場・避難小屋(緊急用として位置を把握)の場所を書き出します。
- 各候補地までのコースタイムを計算する:出発点から候補地まで、前日の宿泊地から候補地まで、それぞれを計算し、手順1の目標と照らします。
- 前後の柔軟性を確認する:悪天候で1日停滞した場合に、翌日以降の行程が成立するかを確かめます。
この手順で「コースタイム的に合う場所」が複数ある場合、登りが多い区間を短め、下りや平坦な稜線区間をやや長めに配分すると疲労が均等になりやすいです。
山小屋とテント場の選択基準
山小屋を使う場合、繁忙期(夏山シーズン・連休)は予約が必要なことが多く、定員を超えると断られることもあります。予約の可否・受付期間・混雑傾向は、各山小屋の公式情報で直接確認してください。計画時期と実際の予約時期に差がある場合は、再確認が必要です。
テント場については、指定地以外へのテント設営を禁じている山域が多いです。設営可能な場所・料金・水場の有無は、山域を管理する自治体や山小屋の情報で確認してください。水場のある宿泊地と水場のない宿泊地の順番が計画に影響するため、水の補給地点を地図に書き込んでおくことが重要です。
「逃げ道」を計画に組み込む
縦走計画でしばしば見落とされるのが、悪天候や体調不良に備えた「逃げ道(エスケープルート)」です。稜線上に長くとどまる縦走では、下山口が限られる区間があります。計画段階で各宿泊地から最寄りの下山口までのコースタイムと、下山後の交通手段を把握しておくことが、実際に撤退を判断する際の根拠になります。
逃げ道を持たない計画は「完走前提」の計画であり、天候が崩れたときに判断が遅れる原因になります。「2日目の宿泊地から南側に下ると3時間で車道に出られる」という具体的な知識が、稜線での撤退判断を早めます。
悪天候時の1日停滞をどこで吸収するか
縦走計画に予備日を1日設けることが一般的に推奨されます。問題は「どこで吸収するか」です。行程の前半に予備日を使ってしまうと後半が詰まります。多くの場合、行程の中間から後半にかけての宿泊地で予備日を使える設計にしておくと、前半の好天を有効活用しながら後半の安全を確保できます。
山岳気象は平地と異なり、稜線では急変します。出発前日と当日朝の天気予報に加え、山岳専用の気象情報サービス(気象庁の高層天気図や登山向けの気象サービス)を確認し、雷や強風の予報が出ている場合は行動中止・短縮の判断を保守的にしてください。
荷物の重さが行動時間を変える
縦走では食料・水・宿泊装備を背負うため、日帰りよりも歩行ペースが落ちます。ザックの重量が体重の20〜25%を超えると、コースタイム比が大きく悪化するとされています(目安であり個人差があります)。
具体的には、日帰りでコースタイムの0.85倍で歩ける人が、15kgのザックを背負うと1.0〜1.1倍になることが少なくありません。計画時に「縦走用のコースタイム比」を日帰りより0.1〜0.2ポイント高く見積もっておくと、初日の予定が狂いにくくなります。
荷物を軽くする工夫(食料の量・食器の選択・衣類の枚数)は行動時間の確保に直結します。ただし、安全に関わる装備(防寒・雨具・ファーストエイド)は削らないことが基本です。
計画を組み直す判断基準
計画を立てた後に「これは無理かもしれない」と感じたら、以下の順で見直してください。
- 1日の行動コースタイムが6時間を大きく超えていないか:特に初めての縦走では、各日5〜6時間(コースタイム換算)を超える場合は宿泊地を見直す
- 最終日に長い行程を置いていないか:疲労が蓄積した最終日に長距離・急下降を置くと膝や足首への負担が増します。最終日は短めにするか、前日の宿泊地を変更する
- 全行程に1日以上の余裕があるか:予備日ゼロの計画は天候変化で即詰まります
- エスケープルートが各宿泊地から確保されているか:地図で確認し、地名と所要時間をメモしておく
次の行動
計画の骨格ができたら、各宿泊地の山小屋またはテント場の情報を管理者の公式情報で確認し、予約が必要な場合は早めに連絡してください。気象は出発3日前から毎日確認し、前日の夜に最終判断をする習慣をつけることが、縦走の安全を大きく左右します。YAMATOMOでは山域ごとのコミュニティや認定ガイドへの相談機能も利用できますので、同じルートを歩いた仲間の経験を参考にしてみてください。
参考資料
- 気象庁「日出没時刻・日面経過」
- 気象庁「登山に関する気象情報の利用について」
- 警察庁「山岳遭難の概況」(各年版)
- 国土地理院「地理院地図(登山道・山小屋の位置確認)」